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リンク過剰の社会。画面には触れれば何か起こるテキスト・アイコン・バナーが隅々まで溢れかえり、さわって無反応な部分があればそれは欠陥である。

タッチパネル以前と以後の画面移動感覚には、馬車と蒸気機関車よりもおおきな差がある。馬車と新幹線、馬車とジェット機、とにかく運行本数も移動速度も馬車のそれとはケタ違いだ。私はおもわず犬猫や宇宙の記事を読みふけり、しばらくの後に洗濯機の電子音でわれにかえる。

凍結した湖をあるく革靴のようにiPhoneに指をすべらせていると、ああ私はこんなにも摩擦係数の小さい、つるつるしたものをすべすべと撫でつづけて、けれど視覚だけはちらちらと目まぐるしく切り替わって……、気づいた時には、視覚と触覚の情報量の不均衡におかしくなっている。

そして私はいつも、多孔質の珊瑚の死骸を撫でる。机の周囲に並べたさまざまな触覚のオブジェを、いろいろに撫でては均衡をとる。iPhoneを触りすぎた後は、親指の腹をざらざらした珊瑚にあてて、少しずつ気が落ち着いてくる。飲酒しすぎたあとに水を飲むのとおなじである。視覚と触覚のズレに酩酊する。


夜、つるつるした化物の夢をみる。
目も耳も口もない、シロイルカのような人型の生物と交接する夢。およそ現実にはあり得ないほどつるつるした皮膚表面に、触れているのかいないのか、手のひらの全体にただ虚ろな気味わるさを感じる。

そこに性的興奮などあるわけもなく、私は正常位の向こう側に何かを見ている。なつかしい旧友の顔か、たわいもない町の景色か———

自律神経が不調のときに、決まって見るおなじ夢だ。
今夜もまたあの化物に会うような気がする。

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